鳩がモネとピカソの絵を見分ける? 慶應大学名誉教授、渡辺茂先生に聴いた「鳥頭」の本気!

鳩がモネとピカソの絵を見分ける? 慶應大学名誉教授、渡辺茂先生に聴いた「鳥頭」の本気!


「ハトがモネとピカソの絵を見分けられることが実験で判明」。

ある新聞記事が目に留まった。明らかにしたのは慶應大学の名誉教授という。
イグノーベル心理学賞を受賞した渡辺先生の、
コカインパーティは皆でやるともっと面白くなる
文鳥の音楽の好みは渋い
など、ユニークな動物の研究に迫ります。

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渡辺茂 慶應義塾大学名誉教授 プロフィール

1948年東京都三田出身。慶応義塾大学文学部心理学専攻卒。
同大学院社会学研究科心理学専攻修了。1995年イグノーベル心理学賞受賞。
主な著書は、『ハトがわかればヒトがみえる』(共立出版)
『ヒト型脳とハト型脳』(文藝春秋)、『鳥脳力』(化学同人)など。
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―――カラスと仲良しなんですね。

僕は小さい頃から文鳥やトカゲなど、色んな生き物に囲まれて暮らしてきました。
大学の構内に、カラスの巣があるんですよ。
ひなの巣立ちのときに、うまく飛べないでウロウロしているヤツを捕まえる。
自分でまだ食べられないうちにエサをやると、懐くんだよ。
最初はネコ缶をやってたんだけど、割と高いのね。
成長したら、乾きもののドッグフードや、チーズを食べてもらっています。

カラスは犬が怒っていることも分かるんですが、人が怒っていることも分かるんですよ。

―――いわゆる「空気が読める」ということですね。なぜ、ハトを実験対象にしたんですか?

心理学の中でハトを扱う実験はそう珍しくないんですよ。
心理学は、19世紀の終わりにできた学問です。
「心」とは何か、みんなが興味を持って研究してたんですが、人間を対象にして実験をすると、
人体実験になってしまうので難しい。
実験動物のネズミを使って、人間の心を研究しようとしていたんです。
ただ、ネズミは嗅覚は鋭いけれど、視覚が鈍いので、認識の仕方が人間と大きく違ってしまうのです。
1940年代から、ハトを使うようになりました。ハトは噛まないし、鳥類は目がよく見えて色の識別もできます。
1960年代からは、世界中の研究室でハトを使った研究が始められるようになりました。

実験室 (6)

―――鳥も実験に協力する姿勢を見せるんですか!?

お腹を空かしておいて、ご褒美に餌をやるんです。

―――真面目な個体を選んでいるのかと思っていました。

人と同じで、お給料もらわないと働いてくれないんだな。
鳥と私のコミュニケーションが成り立つよう、鳥の「つつく」が「分かるよ!」
というサインになるように、エサを介して訓練します。
たとえば2枚の絵のうちのどちらかを選ぶ場合、エサが出てくる仕組みになっています。

ハト1

ピカソの絵を観るハトさん

僕は学生時代に、慶應大学の実験室で研究をしていたんです。
当時、心理学の実験は、魚も鳥も人間も、どんな動物にも当てはまる理論を探そうとしていました。
それならばと、ネズミのような単純な動物で実験をしていたのですが、
1990年代になって、「ネズミでは人間のことが分からない」ことが分かった。最近のことですね。
動物によって、進化の歴史は全然違うからです。
それで、「どうして進化の中で、人間が人間らしくなってきたのか」という、
動物の多様性に焦点が当てられて、研究がされるようになってきました
僕はプラナリアからチンパンジーまで、色々扱ってきましたよ。

ネズミ

2つの絵を見比べるネズミさん

―――なぜ「絵の実験」にしたんですか?

「複雑な『概念』のようなものを調べるには、動物にその概念に共通するたくさんの
刺激を使って訓練するのがいいんじゃないか」とハーバード大学の先生が提唱したんです。

それで、ハトが物事をどう認識しているかを考える材料として、絵を使うことを僕は考えた

僕らがモネやピカソの絵を見分けられ、さらに見たことが無い彼らの絵でも、なんとなく分かるのは、
モネとピカソの絵の漠然としたイメージ(概念)が頭にあるからなんだよね。
同じことが鳥にできるか、ということができるかを実験したんだ。
結果、モネとピカソの絵をハトが見分けられることがわかりました。
1995年に、日本人として最初のイグノーベル心理学賞(注1)をもらいました。

―――鳥が複雑な物事をどれだけ理解できるかを示す指標が、絵だったんですね。

そう!文鳥やネズミも区別ができることがわかりました。

文鳥は音楽も絵画も、好みがシブい?

ネズミには好みがないけれど、文鳥には好みがあるんだね。
好みがあるかと区別ができるかは違うんだ。

同じことが音楽でできるかってことで、バッハの『トッカータとフーガ
(「♪チャラリーン鼻から牛乳」のもととなった曲)』とストラヴィンスキー
『春の祭典』を文鳥に聴かせて実験をしました。
CDを掛けっぱなしにして、特定の曲のいろんな部分を聴かせた。
聴いたことのないバッハとストラヴィンスキーの曲を聴かせて区別ができるかを実験したら、
やっぱり区別ができる。聴覚的なものでも、(こういうのがバッハで、こういうのがストラヴィンスキー)
っていうイメージが鳥の頭にできることが分かった。そうやって、研究してたんだね。

文鳥はかなりの割合で、ストラヴィンスキーよりバッハを好むこともわかった。
両方の作曲家の曲を別の止まり木に流したときに、
バッハの流れる止まり木に長く滞在する個体が多かったんです。

音楽の好き嫌いがはっきりしているのは、人と文鳥のようなソングバード(歌う鳥)だけです。
歌わないハトや金魚は区別ができても好き嫌いが無い。
ある種の音が心地よいっていうのがあると、覚えるのに有利なんだろうな。
求愛の歌が下手だと、文鳥もなかなかモテないからね。

文鳥は、訓練すると英語と中国語の区別もできるようになるんですよ。
人の言葉の微妙なニュアンスの違いも理解できます。
「あなたですか?」と「あなたですか。」の「?」のイントネーションを
区別することができるんです。

絵画では、文鳥は印象派(モネなど)よりキュビズム(ピカソなど)を好みます
これも、モニターの絵を7秒ごとに変えて実験をしたのですが、キュビズム(右)の絵に見入る個体が多かった。

クロード・モネ 『睡蓮』

 

 

 

 

 

 

 

 ピカソ「素人闘牛士」

 

――好みが渋いですね。

なぜキュビズムを好むかについては、研究中です。

ネズミのコカインパーティ

僕のところで研究しているのは、お友達も一緒に覚醒剤を飲んでいると、もっと楽しくなるか
言ってみれば、コカインパーティですな。ハッハッハ。

実験室 (8)
ネズミが白と黒の2つの部屋を自由に行き来できるようになっている。
いつも一方の部屋でヒロポン(覚醒剤)を注射されていると、その部屋が好きになって長くいるようになるよ。
実験をやってみるとね、一匹だけヒロポン飲んでも、お友達がシラフだと、だめ。
みんなでハイにならないと、飲んでも楽しくならないことがわかった。

ゾウも踊る?

鳥が一番複雑に踊ります。「人の音楽に合わせて踊るオウムがいる」ってyoutubeで知って、
疑問に思った研究者が、随分研究したんですけれど、本当でしたね。

ゾウも踊ります。耳がいいので、仲間の声を瞬時に聞き分けられんです。
記憶力も良くて、仲間が死んで10年経った後に、仲間の声を聴かせると、まだ覚えている

―――ずいぶん可哀想な実験をしますね。

それはたまたま死んだだけで、殺したわけじゃないからね。ハッハッハ。
絵を描くゾウがいると聞いて、ゾウが描いた絵画まで購入してしまいました。

実験室 (5)

 

研究をしていると、心は人間だけが持つのものではないことに気づかされます。
人間と動物が似ている部分も、違った部分も両方あることが面白い。
進化の過程が違っていても、似たような心を持っている。
違っているけれど、やはり動物と人間は仲間なのだと思うんです。

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渡辺先生は、今でも鳥達を鳥かごに戻すときに、
本当は君たちは何を考えているのだろう?
と、鳥達の気持ちが知りたくて、たまらなくなるそうだ。

先生は定年後も、毎日のように大学に足を運び、学生と研究に勤しんでいる。
「研究がお好きなんですね」と言うと、「好きなんだろうね。」と微笑んでくださった。
今後、「動物に宗教はあるか」という研究も渡辺先生は計画しているという。
好奇心は、40年間止まることなく、動物の心を追いかけている。

実験室 (3)

_______________________(取材・文 ドクガクテツガク編集部 かな子)_

 

渡辺教授が受賞した、1995年のイグノーベル賞授賞式の模様。


注1 イグノーベル賞:イギリスで始まった、「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」
に対して与えられる賞。日本人では「切っても涙が出ないタマネギ」や、たまごっち、犬語翻訳機のバウリンガルなどが受賞している

 

 

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